2016年7月27日 平成28年熊本地震 視覚障害者初期支援報告

ここから本文です

公開日:
2016年8月3日
分類:
協会から

2016年7月27日 平成28年熊本地震 視覚障害者初期支援報告


平成28年熊本地震 視覚障害者初期支援報告

     平成28年7月27日 視覚障害リハビリテーション協会 災害対策委員会

 1.熊本地震の発生と支援の準備
 (1) 情報の集約
*前震と本震の発生
 14日に発生した震度7の熊本地震を受けて、視覚リハ協で情報交換が始まり、
16日未明に発生した震度7の「本震」によって壊滅的な被害が大きいことが判明
し、緊急支援の必要性が急速に高まった。
*情報の収集と支援の検討
 東日本大震災においては日本盲人福祉委員会(日盲委)に対策本部を置き、日
盲委の3構成団体のほかに、視覚障害リハビリテーション協会、全国視覚障害者
情報提供施設協会(全視情協)及び日本盲導犬協会の3団体が日盲委に結集して
支援を行った。
 今回は、そのときの現地支援責任者を中心に17日からメーリングリストによっ
て情報交換を始め、18日には視覚リハ協内に災害対策委員会が設置された。
 併行して、全視情協においては、熊本県点字図書館と連絡をとり、17日には同
館を現地支援の拠点とすることが決定した。
*視覚障害者のリスト入手と視覚障害者支援専門家派遣の必要性
 東日本大震災においては、初期に視覚障害者のリストがなかったことにより、
支援が相当遅れたので、熊本地震においては、リスト入手のため、関係者ができ
るだけ早く現地入りして準備することを目指した。
 災害発生直後からの環境の激変に最も影響を受けるのは視覚障害者であり、特
に昨今増大している中高年からの中途視覚障害者には、専門家の迅速な支援が不
可欠である。

 (2) 本格的な現地支援の具体化へ
*熊本での準備始まる
 18日に、東日本大震災の支援経験者で北九州在住の歩行訓練士が熊本に入り、
現地の状況を把握するとともに、熊本県視覚障がい者協会会長及び点字図書館長
とともに熊本県庁を訪問して、県から指定管理を受託して視覚障がい者協会が運
営する点字図書館について、その利用者データを災害支援に使用する許諾を得た。
 次いで熊本県下の被災地の障害者リストの早期利用を求めて、東日本大震災で
の日盲委の活動や早期支援の必要性を説いて折衝を行い、前向きの感触を得た。
 21日、災害支援のスペシャリストでもある歩行訓練士が熊本入りし、熊本県と
熊本市を訪問してリストの提供を再度要請した。
 日盲委災害担当者は、初期からの活動を支え、団体間の調整を担った。
*日盲委九州大地震被災視覚障害者支援対策本部を設置
 日盲委は21日に、18日付で「九州大地震被災視覚障害者支援対策本部」を設置
するとともに募金を開始した。4月28日に同対策本部は、第1回運営委員会を開
催した。


2.支援に必要な障害者リストの入手と整理
 (1) 盲学校教員の迅速な支援の取り組み
 熊本県立盲学校は、大地震の発生とともに5月8日まで休校となり、同校校長
は震災への全面的な支援を決定した。18日からは、熊本県視覚障がい者協会事務
局長を含む10人以上の教諭が点字図書館に順次集結し、まずは、盲学校同窓会名
簿、視覚障がい者協会会員リスト、点字図書館利用者リストで、電話による安否
確認を開始した。

 (2) リストの入手と入力・整理作業
*熊本県下被災地の1~3級の視覚障害者リスト入手
 22日、熊本県下44市町村のうち被災12市町村の身障者手帳視覚障害1~3級の
リストが提供され、本格的な支援の材料が入手できた。ただし、申請受付の情報
で、電話番号はほぼなく、既に亡くなっておられたり転居のケースも多くあった。
*熊本市から要援護者登録リスト入手
 熊本市から入手できたのは、要援護者登録リストであった。これは、「同意し
て登録した視覚障害者」のみであり、熊本市内の視覚障害者手帳保持者の1割程
度であったため、多数の熊本市内の視覚障害者には十分には接触できない結果と
なった。
*入力作業の開始と他リストとの照合作業
 熊本県からのリストは、市町村別に綴じられた一人1枚の単票であり、熊本市
のデータは紙媒体の一覧表で、光学読み取りはできなかった。支援の記録にも必
要なので、すべて入力する作業が必要となり、その膨大な作業は、盲学校教諭ら
によって行われた。
 同時に、既に入手していた、点字図書館利用者データ、視覚障がい者協会員名
簿、盲学校同窓会名簿などと順次照合・修正・追記を行って、リストの整合性を
高めた。

 (3) 入力・照合したデータ数、支援に使用した数
*熊本県:44市町村のうち、避難所が設置12市町村の手帳1~3級の視覚障害者
 熊本県下被災12市町村リスト合計数:     1197名
*熊本市:要援護者登録視覚障害者:      ( 418名)
     熊本市内他リストデータ等照合後     734名
◆熊本県内市町村及び熊本市支援使用データ合計数:1931名

*照合に使用したリスト
  熊本県点字図書館利用者数 970名、熊本県視覚障がい者福祉協会会員数
440名、
  熊本県立熊本盲学校同窓会名簿数 553名

3.支援の状況
 (1) 盲学校教員を中心とした電話による確認
 盲学校教員らは、盲学校在校生への連絡と確認を終え、18日からは、熊本県立
盲学校同窓会、点字図書館利用者、熊本県視覚障がい者福祉協会会員の名簿をも
とに、電話による安否確認を始めた。22日からは、熊本県と熊本市のリスト入力
及び諸リストとの照合を進めるとともに、本格的な電話による状況確認を開始し
た。

 (2) 訪問支援員
 22日から、歩行訓練士らが本格的な現地訪問支援のため、被害の大きい熊本市
内や、益城町、南阿蘇村などを回り始め、状況の把握に努めた。
 日盲委の災害担当者は、これらの現地情報を踏まえて、4月22日から、視覚リ
ハ協のメーリングリストで現地支援員の募集を開始した。その結果、5月14日ま
でに、全国の歩行訓練士・相談支援員ら合計31名が順次熊本に入り、現地訪問支
援者は50数名となった。
 *歩行・生活訓練士を中心とした全国からの視覚リハ関係支援者:31名
 (宮城、東京、神奈川、岐阜、京都、兵庫、大阪、島根、徳島、佐賀、福岡、
鹿児島の12都府県から)
 *熊本県立盲学校教諭:10数名(リストの整理後、熊本市内等訪問支援)
 *出田眼科(熊本):10名(連日、2~3名ずつ交代で現地支援)

 (3) 現地訪問支援の内容
 電話連絡のつかない人及び現地訪問支援が必要と思われる方への訪問支援を順
次行った。
自宅を訪ね、不在の場合は近隣の人に尋ねて情報収集に努め、避難の可能性のあ
る避難所を探したほか、今回は車中泊の方も多いので駐車場も探し、支援を行っ
た。
*本人・ご家族に会えたら状況を伺う
 本人がしゃべりやすいよう、傾聴的な配慮もして、状況を伺った。
 体調はどうか、水や食べ物の摂取はどうか、トイレ等に困っていないか、持病
の薬は、ストレスはどうか、身体を動かす機会を作っているか、など。
 自宅や周囲の被害状況を伺ったり、支援者が把握した付近の状況を伝えたりし
た。
*必要な物品の提供
 緊急時における、ラジオ・白杖・音声時計・音声血圧計・音声体温計などの提
供、及び使用方法の説明を行うとともに、補装具・日常生活用具については、役
場等での手続きが可能になればつないでいった。
*必要な支援へのつなぎ
 本人に様々な支援の情報を分かりやすく伝えるとともに、避難所担当責任者、
保健師、医師、地域の福祉施設、ボランティアセンターなどに視覚障害支援につ
いて伝えた。
*支援員のケア
 被災地と被災者の過酷な状況の中で支援した支援者自身も、強いストレスの中
にあり適切なケアが必要になっている。今回は、心理カウンセラーも加わり、よ
り専門的な立場から支援員のケアにも配慮することができた。

4.今後への支援のつなぎ
 初期の支援を終えて、地元の支援につないで行くことが求められている。東日
本大震災における現地支援の責任者で、今回の熊本では初期支援の後半期間の責
任者が中心となって、「つなぐ支援の取り組み」を始めることができた。
 5月13日に、今後の継続支援に向けて、点字図書館、盲学校、県・市視協、眼
科、県・市の福祉課、九州歩行訓練士会、日盲委の現地担当者が集まった。5月
14日までの第一次訪問支援で、継続支援が必要とされた30数名などの今後の支援
について、県視覚障がい者協会を中心にグループを立ち上げ、継続支援を決定し
た。市・県も情報を共有し協力してくれることが決定した。
 5月20日:熊本県視覚障がい者支援ネットワークMLが立ち上がる。21日:熊本
地震視覚障害被災者支援特別委員会支援部会開催(県・市視協、点字図書館、盲
学校、眼科)。
 メーリングリストで支援の必要性と方法を確認しながら、熊本県メンバーを中
心に、必要な訪問支援を継続している。

 (参 考)
(1)視覚障害者の把握が必要
 東日本大震災のとき、避難所に入っても視覚障害者をほとんど見い出せなかっ
た。
 点字図書館の利用者リストでも平均2割以下。8割以上の方々の把握ができて
いない。
「音声時計を知らない:43%」「被災1年後でも白杖非支給が多数」などが続出
した。
*増え続ける高齢からの中途視覚障害者とその状態
 どの年齢で視覚障害になったかで、障害受容や適合の状況は大きく異なる。
10代までに視覚障害になった場合は、障害を受け入れ、かなり対応ができる。し
かし、高齢になってからの視覚障害者は、視力に頼る生活が定着しすぎ、障害受
容すらなかなかできず、社会との接点も少ないままとなる。これら多数の視覚障
害者が、大災害のときには取り残されるため、現地支援のためには、被災地を網
羅した視覚障害者リストの迅速な入手が不可欠である。

(2)なぜ視覚障害者の被災に専門家の迅速な支援が不可欠か
*環境の激変に耐えられない中途視覚障害者への支援
 大災害では、室内・室外、避難路、避難所など、あらゆる周囲環境が激変する。
環境の変化に非常に弱い視覚障害者は、状況の把握ができず、相当困難な状況に
なる。
 高齢の中途視覚障害者は、さらに過酷な状況に陥り、何も言うことすらできず、
回復困難になっていくため、視覚障害等の専門家による、迅速で適切な支援が不
可欠になっている。
*最も大変なトイレの中
 非常時のトイレの中は、バケツの水を流したり、廃紙を処理するような、触っ
てできないことが多数生じ、自立できていた視覚障害者も他人に頼らざるを得な
くなると、人間としての尊厳も失いかねない。この「トイレの苦痛」が最も大き
いことが、東日本大震災でも明らかになっている。さらに、トイレの回数を減ら
すために水も食事も制限し、脱水症状や栄養不足もしくはそれに近い状態になっ
たりしたケースは多い。
*生活不活発病の誘発と関連死への危険性
 多くの被災者が被災時には動くことが減り生活不活発病に陥ることが指摘され
ている。
 さらに視覚障害者は、周囲に気遣って、ほとんど動かずにいることが多くなっ
てしまうため、避難等が長期間になるにしたがって身体の諸機能がどんどん退化
していく。特に中高年になってからの視覚障害者はできないことが多く、さらに
生活不活発病に陥りやすい。単に「からだを動かしましょう」というだけではだ
めで、具体的な日常生活の中での身体動作に結び付けるような、視覚障害に詳し
い専門家による早期からの対応が必要である。